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はじめに
腰椎椎間板ヘルニア(以下ヘルニアと呼びます)は腰痛の他に下肢痛や痺れを伴い、日常生活に支障をきたす症状の一つです。
「ヘルニア」と聞くと不安に思うかもしれませんが、ヘルニアで突出した髄核自体は自然吸収されることがほとんどです。
しかし、中には自然吸収されずに痛みや痺れが続いたり、根本的な原因が治っておらず再発を繰り返す場合もあります。
この記事ではヘルニアを再発しないための体づくりのポイントを紹介します。
腰椎椎間板ヘルニアの発生機序
腰椎椎間板ヘルニアは、腰椎同士の間にある椎間板が変性し損傷します。椎間板とは簡単にいうと繊維性のクッションカバーの中にゲルが入ったものだと想像してください。
そしてカバーを突き破ったゲルが脊柱管内へ達し神経を圧迫すると「下肢痛」が出現します。
椎間板が変性するメカニズム
椎間板は繊維輪という強固な皮の中に、水分を含んだゲル状の髄核が入っています。この髄核があることで背骨に加わる衝撃吸収を分散し背骨である腰椎への負担を減らします。
髄核内にはプロテオグリカンというタンパク質の一種を含み、このタンパク質は水分を保持する役割があります。
プロテオグリカンは軟骨細胞によって生成されますが、加齢、遺伝、過度な負荷によって軟骨細胞が減少します。
水分が減少した椎間板が変性し潰れてくると、背骨同士が近づき椎間板高が減少します。
椎間板高が減少したまま放置をしていると、背骨の軟骨が減少するので骨同士がぶつかります。それを補うために骨が増殖し骨棘を形成し背骨が変形します。
変性した椎間板がもたらす影響
構造的な安定性の破綻
椎間板高が減少すると重量物の持ち上げなどによる過度な負荷や、腰部の屈曲動作(腰を前に曲げる動作のことをいいます)で椎間板内圧がさらに高まります。するとカバーが髄核を抑えきれずカバー(繊維輪)を破りヘルニアが発生する可能性があります。
破れたカバー自体は自然に治癒するのが通常ですが、椎間板内圧が高い状態を改善しなければしっかり治らずに慢性腰痛に移行したり、再発を繰り返すといったような悪循環になりかねません。
椎間板は復活するの?
残念ながら一度水分量が減少した椎間板が、治療や運動で水分量が増すという現象は現在の科学ではみられません。(1)
では、諦めるしかないのか?というとそういうわけではないのです。
例えば、椎間板高が低い腰部構造の人と、椎間板高が高い腰部構造の人が、同じ腰骨の動かし方をしたとすると、もちろん椎間板高が低い人の方が椎間板内圧が高まりやすい傾向にあります。
とういうことは、椎間板高が低い人は低いなりの腰骨の動きを覚えて、腰椎への負担を減らせば椎間板内圧が高まることを防ぐことができるでしょう。(3)
腰椎への負担を減らす腰の動かし方
腰骨(腰椎)の構造と理想の動き
背骨は頚椎と胸椎と腰椎そして仙骨や尾骨が連なったものです。
腰椎はL1-L5の5個の椎骨が繋がり連動して動くようにできています。この連動が上手くいかず、腰を曲げた際にL4-L5に動きが集中すると椎間板内圧が高まり腰痛のリスクが増えます。
腰を曲げるという行為は5個の腰椎がそれぞれ動くのですが、実は一つひとつの関節で動く幅に差があります。
中でもL4-L5.L5-S1間の動く幅が最も大きいのですが、これは椎間板ヘルニアの後発部位と一致します。(4)
ですのでL1-L5まで腰椎全体の動きが連動せずに、各腰椎がバラバラに動いてしまうと、もともと動く幅の大きいL4-L5がさらに大きく動いてしまい椎間板内圧が過度に上がってしまいます。
つまり腰椎への負担が増えてしまうということです。
腰椎の安定性を向上するために
そこで腰部を安定させ各腰椎を連動させるのにとても重要なことが体幹の筋力です。特にコルセット代わりとなる「腹横筋」を活性化させると腰部が安定します。
[Thanks to @visiblebody]
スペシャルオリンピックスポーランドの 3 年間の健康コミュニティプロジェクトで行われた研究では、腹横筋のトレーニングにおいて、立位での腰椎安定度が11%向上、座位では25%も向上したそうです(5)
今回は誰でもできる腹横筋を活性化するエクササイズとして「ドローイン」を紹介します。
体幹エクササイズ「ドローイン」の紹介
腹横筋を活性化するには筋肉を鍛える、というイメージではなく腹横筋をピンポイントで収縮できているかに焦点を当ててみると良いでしょう。つまり「量より質が重要」です。
①膝を曲げて仰向けで寝ます
②腹式呼吸をしましょう(鼻から吸って口から吐く)
※息を吸う際に胸郭が持ち上がる人は腹式呼吸ができていません。お腹を膨らませるようにします
③息を吐くタイミングで下腹部(おへそより下)をへこませます
④30秒〜1分行いましょう
まとめ
腰椎椎間板ヘルニアと聞くと手術?治らない?といった怖いイメージがありますが、しっかり病態を知って対処方法を知っておけば安心ですよね。
しかし、一度変性した椎間板や、変形してしまった背骨は元に戻せません。
今より悪化しないためにもしっかりエクササイズを継続することをおすすめします。
編集者
つぐみ整骨院 院長 篠田健太
保有資格
柔道整復師国家資格(厚生労働省認定)
プロコーチ(マインドセット社認定)
日本足病学協会
Foot Science International社(ニュージーランド認定)
参考文献
(1)金岡恒治.スポーツ障害予防と治療のための体幹モーターコントロール.中外医学社,2020
(2)Owen, PJ, Miller, CT, Rantalainen, T. et al.椎間板のための運動:慢性腰痛患者に対する6か月間のランダム化比較試験。Eur Spine J 29 , 1887–1899 (2020). https://doi.org/10.1007/s00586-020-06379-7
(3)Gaowgzeh, Riziq Allah Mustafa et al. ‘Effect of Spinal Decompression Therapy and Core Stabilization Exercises in Management of Lumbar Disc Prolapse: A Single Blind Randomized Controlled Trial’. 1 Jan. 2020 : 225 – 231.
(4)D.ANeumann.筋骨格系のキネシオロジー原著第3版.エルぜビア・ジャパン株式会社,2021
(5)Nowakowska-Lipiec, K., Michnik, R., Linek, P., Myśliwiec, A., Jochymczyk-Woźniak, K., & Gzik, M. (2020). A numerical study to determine the effect of strengthening and weakening of the transversus abdominis muscle on lumbar spine loads. Computer Methods in Biomechanics and Biomedical Engineering, 23(16), 1287–1296. https://doi.org/10.1080/10255842.2020.1795840
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