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はじめに
あなたは腰の痛みを経験したことがありますか?
私は中学生の頃に初めて腰痛になりました。仰向けで寝られず、朝になると腰がとても痛かった記憶が今もなお色濃く残っています。
あまりに痛かったのと、スポーツ活動に支障が出たため病院へ行きレントゲンを撮りました。
私は「こんなに腰が痛いんだから骨に原因があるに違いない」とある意味少し期待していたのですが、骨に異常はありませんでした。
その時の私の気持ちは「安心と残念」です。
骨に異常が無くて良かったと思う反面、腰痛の原因が分からないことがものすごく不安だったのです。
「この腰痛はいったいなんなんだ?」
「原因が無いのに治せるのか?」
そんな腰痛の不安を抱えながらスポーツ活動を継続し、高校生になる頃には腰痛は消えていました。
それから約10年。運動器疾患の専門家となった今の私なら「そりゃそんな体の使い方じゃ、腰が痛くなるぞ」とあの頃の自分にアドバイスできるようになりました。
前置きが長くなりましたね。というのもあなたはこのように「骨に異常が無い原因不明の腰痛」を経験したことはありますか?
痛いのだから何か原因はあるはずです。しかし、レントゲンでは原因が見つからない腰痛が実際に起こります。
この記事が「骨に異常が見当たらない腰痛」でお悩みの方が、少しでも希望を感じ改善へ向けた一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。
骨に異常が見当たらない腰痛
そもそも腰痛の原因が特定できるものは約15%程度と言われています。その中でも代表的な傷病に「腰椎椎体圧迫骨折、感染症、癌」により骨そのものに異常がみられる腰痛があります。
残りの85%の腰痛はレントゲンで原因が特定できないとされています。
なので私が中学生の頃に体験した腰痛の原因が分からなかったのは当然のことだと思います。
しかし、実際に腰痛を感じているのですから、何らかの原因があったのでしょう。
慢性腰痛の潜在的な原因
腰痛とは肋骨下部から臀部下部にかけて起こる痛み、または筋肉の緊張をいいます。そして腰痛が3カ月以上続く腰痛を「慢性腰痛」といいます。坐骨神経痛等の下肢の痺れや痛みの有無は問いません。
腰痛は慢性疼痛患者に最も多くみられる筋骨格疾患の 1 つであり、患者の 45~75% が腰痛発症後 12 か月以内に痛みを感じると報告されています。
今のところ、西洋医学において腰痛に対する満足のいく治療法は存在せず、さらなる研究が必要とされています。
しかし、私の臨床において慢性腰痛患者には共通してみられる事柄があります。それは「姿勢」です。姿勢によって腰痛になる可能性が高まってしまうのではないかと思います。
実際に慢性腰痛と姿勢の関係を研究した文献はいくつも存在しますが、その中の慢性腰痛患者と健常者の骨盤の傾斜(骨盤の歪み)を測定した研究を紹介します。
慢性腰痛患者198名と健常者709名の矢状面骨盤アライメントを比較したところ、慢性腰痛患者の骨盤が健常者とくらべて骨盤が後方に傾いていたことが分かりました。
この研究だけでは本当に慢性腰痛の原因が骨盤アライメントと関係があると断言ができませんが、事実として慢性腰痛患者の骨盤は後方に傾いている割合が多いのです。(※アライメントとはバランスのことです)
私も腰痛を治療する際は必ず骨盤と胸郭のアライメントはチェックし、できる限り正常に近づけることに努力しています。
そのお陰もあってか、椎間板ヘルニアで手術と言われた患者も当院で改善し、今のところ再発したという報告は受けていません。
腰痛になりやすい姿勢
骨盤の後傾とは
研究でも言われているように骨盤が後方に傾くと慢性腰痛になる可能性が高まると思います。
そこで「骨盤が後方に傾く」とはどういうことか簡単に説明します。
骨盤とは「寛骨+仙骨+尾骨」の集合体を「骨盤」とよびます。この骨盤が後方に傾くことを「後傾」といいます。
骨盤は背骨の土台となり、さらには大腿骨と結合し股関節を形成します。ですので骨盤が後傾すると、骨盤と隣接する下部腰椎も後傾してしまいます。
腰椎が後傾すると、、、
しかし、なぜ骨盤後傾すなわち下部腰椎の後傾が慢性腰痛と関係があるのでしょうか?その一つの理由として「椎間板」の存在があるといえるでしょう。
「椎間板」は背骨と背骨の間に存在しクッションの役割をします。腰椎が後傾すると椎間板が狭くなってしまうことが研究においても示唆されています。
腰椎が後傾しやすい動作
そして、普段の生活で骨盤が後傾しやすい時というのは座位姿勢です。
座っているときは股関節は曲がります。骨盤は股関節が曲がると後傾します。ということはデスクワークやお家でテレビをみているときなど、座っていることが多い人は後傾しやすいかもしれません。
他にも立位で前屈みになるときも腰を曲げるために骨盤が後傾します。
ということは、人間の生活上、骨盤が後傾しやすい環境に置かれていることに気が付きますね。
人間は恒常性維持機能があるため「今の状態」をなるべくキープしようとしてくれますが、この機能も年齢と共に落ちてしまいます。
姿勢を改善するために必要なこと
例えば長時間のデスクワークにより骨盤の後傾が定着した場合、骨盤が前傾するように改善しなければなりません。ただし骨盤が後傾気味かといって、前傾し過ぎは厳禁ですのでご注意を。
そのために必要なことは、骨盤後傾を過剰に促している原因を排除します。その原因の一つに筋肉があります。
硬くなってしまった筋肉は癒着し正常な伸縮機能を失ってしまい拘縮していきます。なので一度、硬くなった筋肉を元に戻してあげます。これはストレッチやポールによる筋膜リリースでは改善しません。
とはいいつつも、このようなセルフケアは現状より悪化させないためには非常に有効ですので積極的にしていただきたいと思います。
しかし、筋肉の強い癒着や拘縮をセルフケアだけで取り除くのは難しいので、専門家に任せた方がスムーズに改善へ向かうかもしれません。
姿勢を維持するためのセルフケア
ここで行うセルフケアはあくまで現状より悪化させないために行うものですのでご了承ください。
今回はマッケンジー体操のご紹介です。この体操は骨盤から背骨を伸ばすことで、体の前面のストレッチ効果と骨盤の後傾を抑制する効果があります。
①うつ伏せに寝る
②前腕を床に着き胸部前面を伸ばす(30秒キープ)
※上記で腰に痛みが無い方は③へ
③手を床に着き胸部から腹部前面を伸ばす(30秒キープ)
まとめ
慢性腰痛の原因を特定することは、レントゲンで行うことは困難です。しかし、慢性腰痛の中にも骨に問題がある場合や重篤な疾患が発見されることもしばしばあります。
ですので、一度病院で検査を行い、骨に異常が見当たらなければ姿勢など潜在的な原因を分析する専門家のところへ行くことをおすすめいたします。
と、中学生の頃の自分にアドバイスしたいものです。
執筆者
つぐみ整骨院 院長 篠田健太
保有資格
柔道整復師国家資格(厚生労働省認定)
プロコーチ(マインドセット社認定)
日本足病学協会
Foot Science International社(ニュージーランド認定)
参考文献
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