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ピラティスを続けても姿勢が変わらないのは、努力不足ではありません
ピラティスを始めて3ヶ月。半年。あるいは1年。
レッスンには真面目に通っている。先生の指示にも従っている。それなのに、鏡に映る自分の姿勢はほとんど変わっていない。
「自分のやり方が悪いのだろうか」 「センスがないのだろうか」 「もっと回数を増やすべきなのだろうか」
そう感じている方は、決して少なくありません。
結論から言えば、ピラティスを続けても姿勢が変わらない場合、その原因は努力の量やセンスではないことがほとんどです。運動学習と運動制御という、身体の仕組みそのものに理由があります。
この記事では、その理由を2つの視点から解説します。ピラティスを否定する趣旨ではありません。効果が出る方には、しっかりと効果が出る優れた運動です。ただ、効果が出にくい方には、それなりの理由があるということをお伝えしたいと思います。

理由①:レッスン中の姿勢と、日常の姿勢は別のもの
まず知っていただきたいのが、「意識してできること」と「無意識でできること」は、脳の中でまったく別の仕組みで動いているということです。
運動学習には段階がある
運動スキルの習得には段階があることが、神経科学の研究で示されています。Luft と Buitrago が2005年にまとめたレビューでは、運動スキルの学習が複数の段階を経て進み、それぞれの段階で異なる記憶のメカニズムが働くことが整理されています(※1)。
ごく簡単に言えば、こういうことです。
初期の段階では、意識的な集中が必要です。 「肋骨を締める」「骨盤をニュートラルに」と頭で考えながら身体を動かしている状態。これは前頭前野や運動野といった、意識的な処理に関わる領域が強く働いています。
後期の段階になると、意識しなくても動きが出てきます。 反復によって、小脳や線条体といった、より自動的な処理を担う領域に動きが移っていく。これが「自動化」と呼ばれる状態です。
問題は、この自動化までたどり着かないまま止まっているケースが非常に多いということです。
学習は「その環境」に紐づいてしまう
もう一つ重要なのが、運動学習には環境依存性があるという点です。
マットの上で、集中して、先生に見られている状態。この特定の条件下で身につけた動きは、その条件と一緒に記憶されます。
だから、レッスン中は美しい姿勢が取れる。けれど、家に帰って、スマホを見て、デスクに向かって、子どもを抱っこして……という日常の中では、その動きは呼び出されません。
意識が外れた瞬間、身体は慣れ親しんだ元の姿勢に戻ります。
これは意志の弱さではなく、脳の仕組みです。姿勢というのは、そのほとんどが無意識に制御されているものだからです。

だからこそ、歩行が重要になる
では、どうすれば日常の姿勢が変わるのか。
鍵になるのが歩行です。
一日のうち、じっと止まっている時間よりも、動いている時間のほうが長い。そして歩行は、ほぼ完全に無意識で行われている動作です。
止まった姿勢だけを整えても、歩くときの身体の使い方が変わらなければ、その姿勢は日常に残りません。歩くたびに、元のパターンで上書きされていくからです。
姿勢と歩行は、セットで考える必要があります。
理由②:固めるべき場所と、ゆるめるべき場所が、人によって逆になっている
もう一つ、ピラティスを続けても姿勢が変わらない大きな理由があります。
必要な対応が、人によって正反対になるということです。
「締めすぎ」と「ゆるすぎ」、2つのタイプがある
腰痛の運動制御に関する研究で、van Dieën らは2019年に興味深い整理を発表しています。腰痛のある人の体幹の運動制御には、「タイトコントロール(過剰に固める)」と「ルーズコントロール(十分に支えられない)」という、2つの対照的なパターン、あるいはその両端を持つスペクトラムが存在するという提案です(※2)。
この論文で重要なのは、次の指摘です。
タイプが異なれば、必要な運動介入も異なる。
つまり、全員に同じ体幹トレーニングを行っても、うまくいく人といかない人が出る。それどころか、タイプによっては逆効果になり得るということです。
頑張るほど、元の形が強くなっていく
臨床の現場で多く見られるのが、次のようなパターンです。
1. どこかの関節に、構造的なゆるさがある
股関節まわりに多く見られます。生まれつきの関節の柔らかさが背景にある場合もあります。
2. 身体は、その不安定さを守るために、別の場所を固める
支えが足りない場所があると、身体はそれを放置しません。もともと使いやすい、強い筋肉をさらに働かせて、全体を安定させようとします。これは防御反応であり、身体としては合理的な選択です。
3. その状態でトレーニングを重ねると、固めるべきでない場所がもっと固まる
ゆるい場所は支えられないまま。強い場所には、さらに強い制御がかかる。
結果として、頑張った分だけ、身体は元の形をより強く保つようになります。
一年続けても姿勢が変わらない。それどころか、肩や腰の張りが以前より強くなった気がする。そうした感覚には、こうした背景があるかもしれません。

今の姿勢は「崩れている」のではなく「選ばれている」
ここまでを踏まえると、姿勢に対する見方が少し変わってきます。
猫背も、反り腰も、巻き肩も、単に「だらしなく崩れた形」ではありません。
身体が、今の状態を守るために選んだ形です。そこには、そうしなければならない理由があります。
理由があるまま形だけを正そうとすれば、身体は抵抗します。整体で矯正しても戻る、意識しても続かない、というのはそのためです。
逆に言えば、土台の不安定さが解消されれば、身体は無理に固める必要がなくなります。 そのとき、姿勢は自然に変わっていきます。
そして重要なのは、そこまで来たときに、これまで積み上げてきたピラティスの練習が、初めて活きてくるということです。無駄になるわけではありません。順番の問題です。
ピラティスをやめるべき、ということではありません
念のため強調しておきますが、この記事はピラティスを否定するものではありません。
効果が出る方には、しっかりと効果が出ます。呼吸、体幹の意識、しなやかな動き。得られるものは多くあります。
お伝えしたいのは、3ヶ月以上真面目に取り組んで変化が感じられない場合、努力を増やす前に、原因を確認したほうがいいということです。
確認すべきポイントは、大きく次の2点です。
- どの関節がゆるく、どこが過剰に固まっているのか(人によって逆になる)
- 歩行という無意識の動作の中で、身体がどう使われているのか
この2つは、感覚では分かりません。測定して、はじめて見えるものです。
当院での確認方法
つぐみ整骨院(群馬県伊勢崎市)では、姿勢と歩行をセットで評価しています。
- 足底圧測定:立位での荷重の偏りを数値で確認します
- 歩行解析(TruFit):荷重バランス、重心の移動軌跡、歩行周期をデータで記録します
- 関節機能の評価:どこにゆるさがあり、どこが過剰に働いているかを確認します
「なんとなく良くなった気がする」で終わらせないために、初回のデータと経過のデータを比較できる形で残しています。
3ヶ月以上取り組んでも姿勢が変わらなかった方に向けたコースをご用意しています。詳しくは下記をご覧ください。
まとめ
ピラティスを続けても姿勢が変わらない主な理由は、2つあります。
1. 意識してできることと、無意識でできることは別 レッスン中の姿勢は、その環境に紐づいて記憶されます。日常の無意識な姿勢に反映させるには、歩行のような自動的な動作まで含めた取り組みが必要になります。
2. 必要な対応が人によって逆になる 固めるべき場所とゆるめるべき場所は、人によって異なります。ゆるさを放置したまま強い場所を鍛え続けると、元の姿勢がむしろ強化されていきます。
変わらないのは、あなたの努力が足りないからではありません。順番と、対象が合っていないだけかもしれません。
【参考文献】
※1 Luft AR, Buitrago MM. Stages of motor skill learning. Molecular Neurobiology. 2005;32(3):205-216.
※2 van Dieën JH, Reeves NP, Kawchuk G, van Dillen LR, Hodges PW. Motor Control Changes in Low Back Pain: Divergence in Presentations and Mechanisms. Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy. 2019;49(6):370-379.
【監修】

院長 篠田
「何をやっても変わらない」という方を見てきた中で、原因が静止した姿勢ではなく歩行にあること、そして人によって必要な対応が真逆になることに行き着きました。だから当院は、姿勢と歩行をセットで扱います。
施術者や学生に向けて、身体の仕組みや腰痛治療について講義を行っています。
・柔道整復師 国家資格(厚生労働省認定)
・Myokinematic Restoration(PRI JAPAN)
・日本足病学協会 Foot Science International社(ニュージーランド認定)
・プロコーチ(マインドセット社認定)

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