
「股関節が痛いから、YouTubeで見た開脚ストレッチを毎日やっています」
「お風呂上がりに入念に伸ばしているのに、翌朝起きるとやっぱり痛いんです」
当院のカウンセリングで、非常に多くの患者様がそう口にします。
ご自身でなんとかしようとする努力は素晴らしいですが、専門家の立場から、残酷な事実をお伝えしなければなりません。
もしあなたが、痛みを抱えながら「硬いから伸ばさなきゃ」と必死にストレッチをしているなら、それは逆効果である可能性が高いです。
最悪の場合、そのストレッチが関節の破壊を早めているかもしれません。
なぜ、「良かれと思ってやっていること」が身体を壊すのか?
今日は、多くの人が誤解している「筋肉が硬くなる本当の理由」と、自宅でできる「唯一の正解ケア」について、医学的な根拠を交えて解説します。
Contents
その「硬さ」は、身体が作った「防御壁」である
まず、根本的な誤解を解きましょう。
「筋肉が硬い=悪」ではありません。多くの場合、筋肉は「必要があって硬くなっている」のです。
変形性股関節症や慢性的な股関節痛を持つ方の関節は、構造的に不安定(グラグラしている状態)になっています。
不安定な関節を放置すれば、歩くたびに軟骨や骨がぶつかり、壊れてしまいます。
そこで、脳はどうするか?
これ以上関節がズレないように、周りの筋肉を緊張させて「ギプス」のように固める命令を出します。これを医学的に「筋性防御(Muscle Guarding)」と呼びます(1)。

つまり、あなたの股関節の硬さは、身体が必死に作り出した「守りの盾」なのです。
盾を捨てれば、城(関節)は崩壊する
このメカニズムを知らずに、無理やりグイグイとストレッチをして「緩めて」しまったらどうなるでしょうか?
せっかく身体が作った「防御壁」が取り払われ、関節は再び無防備なグラグラ状態に戻ります。
すると、脳は「危険だ!もっと守らなければ!」とパニックを起こし、前よりも強く筋肉を固めようとします。

これが、「ストレッチ直後は少し楽になるが、翌日にはもっと硬く、痛くなる」というリバウンド現象の正体です。
実際、股関節の治療ガイドライン(OARSIなど)においても、単に筋肉を伸ばすことよりも、関節を安定させるための「筋力強化」や「神経筋コントロール」が重要視されています(2)。
安定性のない柔軟性は、怪我のもとでしかないのです。
戦うべき相手は「硬さ」ではなく「重力」

では、何をすればいいのでしょうか?
注目すべきは、筋肉ではなく「重力」と「構造」です。
股関節は、体重(重力)を支えるための最大の荷重関節です。
正常な股関節は、骨盤という屋根の下に大腿骨頭が綺麗に収まり、筋肉の頑張りがなくても、骨の構造だけで重力を受け止められるように設計されています(3)。
しかし、姿勢の崩れや歩き方の癖によって、この「重力の通り道(ベクトル)」がズレてしまうと、骨で支えきれない負荷がすべて筋肉にかかります。
筋肉が過剰に頑張り続けている状態、それが「コリ」や「痛み」の正体です。
この状態でマッサージやストレッチをしても、重力の通り道がズレている限り、立って重力がかかった瞬間に、また筋肉は硬直します。いたちごっこです。
唯一、自宅でやってほしい「貧乏ゆすり」ケア
「ストレッチがダメなら、家で何もできないじゃないか!」
そう思われたかもしれません。一つだけ、特効薬があります。
それは、「貧乏ゆすり(ジグリング)」です。
「え、行儀が悪い…」と思われましたか?
実は整形外科の分野では、この貧乏ゆすりが変形性股関節症の痛みを和らげ、軟骨の再生を促す可能性があるとして、真剣に研究されています。
股関節の軟骨には血管がなく、「関節液」から栄養をもらっています。この液は「圧力をかけたり、抜いたりする」というポンプ作用がないと循環しません。
強いストレッチは流れを止めてしまいますが、ジグリングは関節に負担をかけずポンプ作用だけを生み出し、股関節に栄養を送り込むことができるのです。
【実践:脱力ジグリング】

①椅子に浅く腰掛けます(股関節と膝が90度になるように)。
②つま先を床につけたまま、踵(かかと)を軽く浮かせます。
③その状態で、踵を上下に小刻みにトントンと揺らします。
☆ポイントは「頑張らないこと」。 筋肉を使わず、脱力して行ってください。
1回3分〜5分。「筋肉を伸ばす」のではなく、「関節を潤す」イメージです。
⑤「正解」をインストールするということ

自宅ケアで関節を潤した上で、最終的に必要なこと。
それは、脳と身体に、本来の設計図を思い出させることです。
これには「運動制御(Motor Control)」の理論を用います(4)。
単に可動域を広げるのではなく、「どの位置に関節があれば、最小限の力で重力を支えられるか」を、脳に学習(インストール)させるのです。
(1)見立て(分析): どこで重力のベクトルが狂っているかを特定する。
(2)構造修正: 股関節を、骨だけで立てる「ゼロポジション」へ誘導する。
(3)再教育: その正しい位置感覚を脳に記憶させる。
関節が正しい位置(ニュートラルゾーン)に収まり、安定性が確保されれば、身体は「もう守らなくていいんだ」と理解します(5)。
その瞬間、筋肉は勝手に、フワッと緩むのです。
これが、無理に伸ばさなくても柔軟性が上がる、人体のロジックです。
結論
股関節の痛みは、患部の問題ではありません。
あなたの身体が「重力」と仲良くできていないサインです。
防御反応で硬くなっている筋肉を、無理に引き剥がすようなストレッチはもうやめましょう。
それは、傷口を広げるのと同じことかもしれません。
揉んでも解決しません。伸ばしても解決しません。
必要なのは、「なぜ防御反応が出ているのか?」という見立てと、「正しく重力を受け止める」ための機能の再構築です。
遠回りをするのはもう終わりにしましょう。
当院は「身体の「正解」をインストール」するためのサポートを行なっています。
【参考文献】
(1)Magee, D. J. (2014). Orthopedic Physical Assessment. Elsevier Health Sciences.
(2)Bannuru, R. R., et al. (2019). OARSI guidelines for the non-surgical management of knee, hip, and polyarticular osteoarthritis. Osteoarthritis and Cartilage.
(3) Neumann, D. A. (2016). Kinesiology of the Musculoskeletal System: Foundations for Rehabilitation. Elsevier.
(4)Shumway-Cook, A., & Woollacott, M. H. (2017). Motor Control: Translating Research into Clinical Practice. Wolters Kluwer.
(3)Panjabi, M. M. (1992). The stabilizing system of the spine. Part I. Function, dysfunction, adaptation, and enhancement. Journal of Spinal Disorders.
執筆者

つぐみ整骨院 院長 篠田健太
柔道整復師として15年目、複数の整骨院(接骨院)、整体院にて修行し独立。
地域の方のみならず日本代表やプロスポーツ選手の治療にあたる。
痛み治療やトレーニングに関して講演を行なっている。
保有資格
柔道整復師国家資格(厚生労働省認定)
プロコーチ(マインドセット社認定)
日本足病学協会

コメント